中央大量子凝縮系理論セミナー

2024年度第5回中央大量子凝縮系理論セミナー
日時: 10月30日(水) 15:00 – 16:30
場所: 中央大学後楽園キャンパス 3507教室(3号館5階)
発表者: 八角繁男(NTT CD研究所)
タイトル: ノイズのある量子回路の古典シミュレーション可能性
アブストラクト:
 古典コンピュータで解くことが困難な社会・産業的に有用な問題を、ノイズの影響を受ける量子コンピュータを用いて解く、いわゆる量子優位性実証は重要なマイルストーンである。一方で、ある程度ノイズの影響を受けた量子回路は古典コンピュータで効率的にシミュレーション可能であることが知られている。そのため、量子回路がどの程度ノイズの影響を受けてしまうと古典シミュレーション可能なのかを定量的に明らかにすることは重要な課題である。
 本講演では、まずGottesman-Knillの定理を用いて、一般の量子回路を古典シミュレーションする方法とその古典シミュレーションコストについて説明する。次に、自由フェルミオンのダイナミクスを表すMatchgate回路を用いた場合についても、一般の量子回路をシミュレーションする方法とその古典シミュレーションコストについて説明する。これらの古典シミュレーションコストを、ノイズの影響を受けた具体的な量子回路に対し数値計算することで、どのような回路が古典シミュレーションしやすいのかを議論する。

2024年度第4回中央大量子凝縮系理論セミナー
日時: 10月16日(水) 15:00 – 16:30
場所: 中央大学後楽園キャンパス 3507教室(3号館5階)
発表者: 設楽智洋(NTT CD研究所)
タイトル: 有限群で記述される非対称性のリソース理論とi.i.d.変換可能性
アブストラクト: 対称性は物理学全般において重要な役割を果たすが、近年、量子情報理論の観点から研究が進められている。特に、非対称性のリソース理論と呼ばれる枠組みにおいては、状態や操作の非対称性をリソースとして利用して、対称性による制限を受けた操作(共変操作)のみを用いてどのようなタスクが実行できるかを解析する。本発表では、はじめに非対称性のリソース理論について説明する。その後、私たちの最近の結果として、対称性が有限群で記述される場合に、共変操作のみを用いてある独立同分布(i.i.d.)純粋状態から別のi.i.d.純粋状態へ変換する際の漸近変換レートを求める公式を紹介する。漸近変換に誤差を許すかどうかによって、変換レートの振る舞いが大きく異なることや、その物理的背景について議論する。

2024年度第3回 中央大量子凝縮系理論セミナー
Date: 7/29(月) 15:00~16:30
Place: 中央大学後楽園キャンパス 3507教室(3号館5階)
Speaker: Filiberto Ares(SISSA)
Title: Entanglement asymmetry: from the quantum Mpemba effect to black hole evaporation
Abstract: In this seminar, I will introduce the entanglement asymmetry, a quantum information based observable that measures how much a symmetry is broken in a part of an extended quantum system. I will then discuss two applications of it. First, I consider a spin chain in which a symmetry explicitly broken by the initial state is dynamically restored by the time evolution after a quantum quench. Unexpectedly, the more the symmetry is initially broken, the faster is restored, a quantum version of the counterintuitive and yet mysterious Mpemba effect. As a second application, I will use the entanglement asymmetry to monitor the broken symmetries of a black hole during its evaporation. I will show that, if the black hole initially breaks an arbitrary U(1) symmetry and information is preserved, the emitted radiation is in a symmetric state until the halfway point of the evaporation, the Page time, at which undergoes a sharp transition to a state that breaks the symmetry.

2024年度第2回 中央大量子凝縮系理論セミナー
日時: 6月14日(金) 15:10-16:40
場所: 中央大学後楽園キャンパス 3507教室(3号館5階)
発表者: Karin Sim (ETH Zurich)
Title: Dynamics of non-Hermitian systems
Abstract: Non-Hermiticity in quantum Hamiltonians leads to non-unitary time evolution and possibly complex energy eigenvalues, resulting in a rich phenomenology with no Hermitian counterpart. By studying quantum quenches in an exactly solvable model [1], we reveal the violation of adiabaticity in non-Hermitian systems that pass through exceptional points during time evolution. We employ a fully consistent framework of non-Hermitian quantum mechanics, in which the Hilbert space is endowed with a non-trivial dynamical metric. We then generalize the notion of unitary symmetry to non-Hermitian systems, showing that the symmetry structure leading to the violation of adiabaticity is general.
[1] Phys. Rev. Lett. 131, 156501 (2023), arXiv:2406.05411

2024年度第1回 中央大量子凝縮系理論セミナー(オンライン形式)
日時: 5月17日(金) 16:00-17:00
発表者: 竹内勇貴 (NTT CS研究所)
タイトル: 測定型量子計算における計算万能性から量子状態万能性への触媒的変換
アブストラクト: 任意の量子計算を行うことができる計算モデルは万能量子計算モデルと呼ばれている。量子計算では古典ビットと量子状態という2種類の出力が考えられるため、2種類の万能性が存在する。任意の量子状態を生成できる性質を量子状態万能性(strict universality)、任意の量子回路の出力確率分布を生成できる性質を計算万能性(computational universality)と呼ぶ。定義より、量子状態万能性を有する計算モデルは計算万能性も有している。しかし、逆は一般には成り立たないことが知られている。本発表では、まず始めに測定型量子計算の基礎を説明する。その後、我々の結果として、計算万能性を量子状態万能性に変換する手法を紹介する。特に、本変換手法を具体的な測定型量子計算プロトコルに適用することで、リソース理論の観点では2つの万能性に差がない場合があることを示す。今後の展望についても議論する予定である。